お年寄りのおばあちゃんが、立ち去らずにずっと見ていました。
陽が落ちて行く中で、踊り終えた泯さんに声をかけようか、どうか迷っているようにも見えました。何を思うのか、立ちすくみ、じっと泯さんを見ていたのです。
私は、そのおばあちゃんの姿が印象的で、あれからずっと考えていました。
泯さんの踊りは始めてではなかったのかも知れない、、、。
昔は、みんなが集まって酒を飲むと、勝手に踊りだしてあんな風に踊ったのかもしれない。
大地を踏んだり、作物を愛撫したり、自然の匂いを嗅いでみたり。
踊るだけでなく、「おお」「おお」と叫んでみたり。
おばあちゃんのまたそのおじいちゃんかもしれないけど、あんな風に大地を愛し(いとし)んで、踊ったのだろう。
コンクリートに囲まれたこの街の風景が変わってしまったその真ん中で、田中泯の体を通して、時間を遡って、懐かしい「あの頃」のことが突然よみがえったのではないだろうか。
踊り終えた田中泯の前に、ただ立ちすくんでいた、あのおばあちゃん。ビルの照明が点す時には、その姿も消えていました。